研究紹介

表皮生物学

本研究グループは、皮膚の表面にあるTRAF6という細胞内シグナル伝達物質が、乾癬(かんせん)の発症や持続に必須であることを発見しました。本研究成果は、2018年8月9日に米国の国際医学誌「JCI Insight」のオンライン版に掲載されました。

https://doi.org/10.1172/jci.insight.121175

皮膚の表面の表皮という部分に細胞内シグナル伝達物質「TRAF6」のないマウスは、乾癬にみられるような免疫の働きがおこらず、乾癬を発症しないことを発見しました。さらに、このマウスの皮膚にIL-23というサイトカイン(免疫調節因子)を注射して、乾癬に特徴的な免疫異常を誘導しても、やはり乾癬の発症は抑制されました。
本研究結果により、表皮の働きが、乾癬の皮膚にみられる免疫の異常な活性化にやその持続に必須であることが明らかになりました。また本研究成果により、免疫の異常ではなく、その上流で免疫を調節する表皮の働きが、新しい治療の標的となりうることが示されました。
本研究グループは以上の研究成果を発展させ、「上皮-免疫微小環境 (EIME)」という新しい概念を提唱し、2018年11月16日に国際学術誌「Nature Immunology」のオンライン版に掲載されました。

https://doi.org/10.1038/s41590-018-0256-2

表皮と免疫細胞の間にインターロイキン17(IL-17)による
炎症のサイクルがおこり、乾癬の病態をかたちづくる。

表皮にTRAF6がないと乾癬がおこらない。

皮膚免疫・炎症の生体イメージング

免疫反応・炎症などの様々な生命現象は、多種の細胞が動的に絡み合い形成される、極めてダイナミックな現象です。従来、それら動的イベントの詳細は、組織切片の解析から推測する のみでした。しかし、近年の技術の進歩により、生体内での細胞動態を直接的に観察(生体イメージング)することが可能となってきました。動画(生体イメージング)からは、静止画 では得られない、多くの情報がもたらされます。私たちは、様々な皮膚免疫反応・炎症の生体イメージングを行うことで、病態形成メカニズムの本質を明らかとすることを目標に、 研究を進めています。

皮膚悪性腫瘍

がん免疫療法におけるバイオマーカーの探索・メカニズムの解明

「ほくろのガン」である悪性黒色腫は、進行期になると有効な治療がほとんどありませんでした。抗PD-1抗体(ニボルマブ)が2014年に承認されて以後、悪性黒色腫に有効ながん免疫療法が次々と承認されています。しかし、がん免疫療法は一部の患者さんには劇的な効果が現れる一方で、効果がでない患者さん、副作用が発現する患者さんもいらっしゃいます。
当研究室では、がん免疫療法の効果予測、副作用発現予測に役立つマーカーを遺伝学、皮膚免疫学的の二つの観点から探しています。

HLA遺伝子が効果と関連する可能性があること、KIR遺伝子が効果と関連しないことを報告しております(1,2)。
現在、7色の免疫組織科学染色を用いて腫瘍の微小免疫環境を解析し、がん免疫療法が奏功する際にどのような細胞間の相互作用があるのかを研究しています。

  • Ishida Y, Otsuka A, Tanaka H, Levesque MP, Dummer R, Kabashima K. HLA-A*26 Is Correlated With Response to Nivolumab in Japanese Melanoma Patients. J Invest Dermatol. 2017;137:2443?4.
  • Ishida Y, Nakashima C, Kojima H, et al. Killer immunoglobulin-like receptor genotype did not correlate with response to anti-PD-1 antibody treatment in a Japanese cohort. Sci Rep. 2018;8:15962.

皮膚がんのゲノム研究

皮膚がんには色々な種類があり、そのうち悪性黒色腫、有棘細胞がん、基底細胞がんは、どのような変異が発がんの原因であるのかよく研究されており、それに基づき色々な薬が開発されております。一方、それ以外の皮膚がんになるとほとんど知見がないのが現状です。本研究室では次世代シーケンサーを用いて稀少皮膚がんのゲノム研究をしております。特に、乳房外パジェット病、汗孔がんにフォーカスし、ドライバー変異、進化の過程の解明に取り組んでおります。

末梢神経と免疫細胞の相互作用に着目したかゆみメカニズムの解明

かゆみはアトピー性皮膚炎をはじめとする多くの皮膚疾患における重要な皮膚症状の一つですが、しばしば治療に難渋します。既存の抗ヒスタミン剤の効果が乏しい症例も多く、かゆみ治療に対する新規治療の開発は重要な課題といえます。また、2018年4月に、本邦で、インターロイキン 4 受容体αサブユニット(IL-4Rα)に対する高親和性完全ヒト抗体であるdupilumab(デュピクセント)治療がアトピー性皮膚炎に対し承認されました。これまでに、投与患者におけるアトピー性皮膚炎の皮疹の改善に加え、かゆみの改善やQuality of life(QOL)の改善など、アトピー性皮膚炎による症状に対するdupilumabの有効性が報告されています。 さらに、今後もインターロイキン31(IL-31)受容体抗体やJAK阻害剤など新たな治療が、皮疹やかゆみをはじめとするアトピー性皮膚炎の臨床症状を改善することが証明され、今後承認されていくことが予想されます。このような新規薬剤における止痒メカニズムを明らかにしていくことも重要な課題といえます。

現在我々は、

  • 様々な皮膚疾患マウスモデルを利用し、免疫細胞と末梢神経の相互作用を明らかにすること
  • 企業との共同研究を実施し新規止痒剤の開発や臨床検体を用いたかゆみに関する評価

を中心に行っています。

具体的には、接触皮膚炎(かぶれ)モデルにおける除神経マウスを用いた末梢神経と樹状細胞の相互作用や、黄色ブドウ球菌誘発皮膚炎における末梢神経と好塩基球の役割といった研究をすすめていいます。

  • San Wong L, Otsuka A, Yamamoto Y, Nonomura Y, Nakashima C, Kitayama N, Usui K, Honda T, Kabashima K. 2017. TRPA1 channel participates in tacrolimus-induced pruritus in a chronic contact hypersensitivity murine model. J. Dermatol. Sci
  • San Wong L, Otsuka A, Yamamoto Y, Nonomura Y, Nakashima C, Kitayama N, Usui K, Honda T, Kabashima K. 2018. TRPA1 channel participates in tacrolimus-induced pruritus in a chronic contact hypersensitivity murine model. J. Dermatol. Sci 89: 207-9

図A
神経免疫サイクルのシェーマ図

図A 神経免疫サイクルのシェーマ図

図B
イミキモド誘発尋常性乾癬様皮膚炎モデル(IMQ)
における末梢神経の分布を二光励起顕微鏡で観察

図B イミキモド誘発尋常性乾癬様皮膚炎モデル(IMQ)における末梢神経の分布を二光励起顕微鏡で観察

皮膚常在微生物による炎症性皮膚疾患病態制御機構の解明

皮膚は外的刺激因子から物理的に宿主を守るバリア臓器として重要であるだけではなく、皮膚表面に生息する細菌・真菌・ウイルスなどの常在微生物の共生の場や免疫応答の場としても非常に重要な役割を果たしています。アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患の皮疹部では皮膚常在微生物叢を構成する細菌叢のバランスの乱れや特定の細菌が過剰増殖していることが報告されていますが、皮膚炎の増悪・寛解に関与する常在微生物の種類や、皮膚炎制御のメカニズムなど、不明な点も多いです。そこで、我々の研究グループでは、炎症性皮膚疾患の病態を制御する皮膚常在微生物の同定と炎症性皮膚疾患のメカニズムの解明を目指し、研究を進めています。

皮膚炎症の発症および慢性化のメカニズム

人体は物理的バリアと免疫システムによって微生物による感染症から守られています。皮膚は、重要な物理的バリアであると同時に、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞、 肥満細胞などの免疫細胞を保有し、多彩な免疫応答を誘導することが可能な免疫臓器でもあります。皮膚における免疫応答は、微生物などの外来抗原の排除に働く一方、 過剰あるいは異常な応答は、皮膚炎症の発症や慢性化につながります。現在、こうした病態のメカニズム解明をめざし、研究を進めています。

IgE産生の制御メカニズム

外来抗原に対するIgE産生は通常厳密にコントロールされていますが、時に過剰に産生されると喘息、鼻炎、食物アレルギー、アナフィラキシーなど様々なアレルギー性疾患 をひきおこします。近年、皮膚を介した抗原曝露や慢性皮膚炎の存在が、こうした病的IgE産生を引き起こす重要な原因であることが分かってきました。しかし一方で、 IgEは外来抗原に対する皮膚の免疫応答が正常におこるために必要であることも知られています。こうした功罪併せ持つIgEの産生が、生体内でどのように制御されているかについて 研究を行っています。

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